2020年4月1日
<サブスク会計学>サブスクリプションとは何だろう
サブスクリプションビジネスがいつまでも儲からないように見えるわけ【その1】



<要旨>

 昨今サブスクリプションが注目され、多くの企業がビジネスモデルをサブスクリプションビジネスに移行しようと試みています。しかし、サブスクリプションを提供する企業の多くが黒字化できていなかったり利益率が低いままであったりします。一見、利益追求という意味では非合理なビジネスモデルにみえます。しかし、サブスクリプションの会計を理解すれば、一見儲かっていないように見えても、合理的な理由が存在し、本当は儲かっているのだということが理解できます。

1.はじめに

 サブスクリプションビジネスは黒字化に時間がかかることや利益率の低さを指摘されることがあります。会計上の利益を最大化させるという意味においてサブスクリプションは儲からないビジネスモデルであるかのような印象を受けます。
 それにも関わらずサブスクリプションが注目を集め、多くの企業がサブスクリプションビジネスに挑戦しようとしています。
 ITの進展によってデジタルタッチポイントを通して消費者の需要を喚起することが可能になったといった技術的な要因や、消費者の志向が「所有から利用」や「モノからコト」へと変化しているといった社会的な要因などによって経営環境が大きく変わりつつあることが企業にとってビジネスモデルの変革へのプレッシャーになっていることは間違いありません。
 しかし、だからといって黒字化に時間がかかったり利益率の低いビジネスをする理由にはなりません。会計的な目線においても合理的な理由が潜んでいるはずです。

2.赤字決算

 家計管理アプリなどのサブスクリプションで知られるマネーフォワード社が2020年1月14日に19年11月期決算発表をしました。(※1)資料によれば71.56億円の売上高に対して24.46億円もの営業損失(※2)です。同社が上場したのは2017年9月のことですが、上場以前の2015年11月期から営業損失を毎年計上しています。(※3)同社は営業損失を計上しながらも調達した資金を人件費と広告宣伝費に投下しその事業規模を年々大きくしてきました。確かに売上は年々伸びているようですが、費用の規模も大きくなっており、いっこうに黒字化するようにはみえません。同社は「サブスクリプションは黒字化に時間がかかる」を地で行っているようです。やはりサブスクリプションは儲からないビジネスモデルなのでしょうか。もちろんそんなことはありません。実は同社の決算発表はサブスクリプションの会計を理解するための重要な示唆を含んでいます。

3.サブスクリプションの会計

 サブスクリプションの会計を理解する重要なキーはサブスクリプションの定義にあります。サブスクリプションは「顧客との継続的な関係性が担保されている状態」と定義されています。(※4)  「顧客との継続的な関係性」があるということはその顧客が将来にわたって財・サービスを利用し続けるであろうことが期待されます。当然、財・サービスの対価を企業は受け取るので、企業からみれば将来にわたって繰り返し継続的に収益を得ることが期待できます。それが「担保されている状態」なのですから、その顧客が将来にわたって財・サービスを利用し続けることが「期待できる」からさらに一歩踏み込んで「約束された状態」と読み替えられます。よって、サブスクリプションの会計では「将来にわたって繰り返し継続的に収益を得ることが約束された状態」と考えます。ここに売り切り型のビジネスとの大きな違いがあります。
 売り切り型のビジネスの場合、今年の収益が翌年の収益を保証しません。単価が変わらないとすれば翌年も今年と同じだけの回数の売買契約をしなければ今年と同じ収益を上げることができません。そのため翌年も今年と同じだけの販売やマーケティングといった営業活動が必要になります。
 一方でサブスクリプションの場合、「顧客との継続的な関係性が担保されている状態」なので、今年の契約は翌年に持ち越されます、単価が同じで解約が無いとすれば、新規契約の獲得のための営業活動を一切しなかったとしても翌年は今年と同じだけの収益を得られます。
 過去の営業活動によって既に今の収益が確定しているので、新規契約獲得のための営業活動の費用を抑制してしまえば、確実に営業利益が残ります。売り切り型の場合、収益が確定していないので収益を得るためには営業活動を継続しなければならず、営業活動の費用を抑制すると営業利益を稼げないのです。
 以上のことから、サブスクリプションの場合は一定の収益を確保してしまえば、早々に営業活動費を抑制することで営業利益を大きくすることも黒字の早期化も可能になることが分かります。
 しかし、そうであるならば、なぜマネーフォワード社をはじめ多くのサブスクリプションビジネスの企業が黒字化を急がないのでしょうか。

4.大きく育ててから刈り取る

 マネーフォワード社の19年11月期決算発表資料に「サブスクリプションモデルのため、中長期的なキャッシュフローの最大化を重視」と記載されています。(※1)ここから、目先の小さな利益を追うのではなく中長期的に大きな利益を得ようと考えていることが読み取れます。  営業活動の費用を抑制したとしても確保した収益が小さければ、残る利益も小さなものになります。ですから大きな収益を確保するまでは損失を出してでも資金の許す限り営業活動をして新規契約獲得に邁進し、巨大な収益を確保できた時にようやく営業活動の費用を抑制し大きな営業利益を安定的に稼ぐという戦略なのです。
 このような戦略に出られるのは売り切り型のビジネスと異なりサブスクリプションビジネスは「顧客との継続的な関係性が担保されている状態」が構築されることによって「将来にわたって繰り返し継続的に収益を得ることが約束された状態」をつくりだせるからなのです。  とはいえ、いつまでも損失を計上していてはいつかは倒産してしまいます。マネーフォワード社はいつまで損失を計上し続けるのでしょうか。同社によれば黒字化のタイミングはスケジュール化されているようです。決算発表資料の中で2021年11月期にEBITDA(※5)で黒字化すると宣言しています。ですから、それまでは収益拡大を優先し、時期が来たら営業活動の費用が抑制されるのだろうと予想します。予想が当たるか否か、その時を楽しみに待ちましょう。

5.おわりに

 以上の説明から、一見して儲かっていないように見えるサブスクリプションビジネスも本当は儲かっているのに、将来の利益を最大化するために、今の利益を削っているので、儲かっていないように見えているのだということが理解できたのではないでしょうか。


※1 マネーフォワード社 2019年11月期通期決算発表資料をご参照下さい。
※2 営業利益は黒字、営業損失は赤字のことです。
※3 マネーフォワード社 財務ハイライトをご参照ください。
※4 「SMARTサブスクリプション」をご参照下さい。
※5 EBITDA=営業利益+減価償却費企業のキャッシュ創出力を示す指標の1つです。

参考文献

・マネーフォワード社 2019年11月期通期決算発表資料
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3994/ir_material_for_fiscal_ym/75196/00.pdf
・マネーフォワード社 2019年11月期決算短信
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3994/tdnet/1783568/00.pdf
・マネーフォワード社 財務ハイライト https://corp.moneyforward.com/ir/finance/
・宮崎琢磨 他 著, 2019.10.4,『SMARTサブスクリプション: 第3世代サブスクリプションがBtoBに革命を起こす!』,東洋経済新報社
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