『「定額課金」の価値と使いどころ』

事業家が知るべきサブスクリプション導入の真の目的

我々は、サブスクリプションの本質は「顧客との継続的な関係の担保」にあり、定額課金には設計上の難しさがあることを論じてきました。
今回は、その難しさを踏まえた上で、定額課金モデルを事業に取り入れることで効果を発揮する、定額課金が「効く」3つのパターンと、導入前に考えるべき真の課題に焦点を当てます。


1. 顧客数極大化ビジネスモデルを指向している

定額課金モデル単体で成功を収めるには、「購入頻度」と「購入額」が固定されるため、「顧客数の極大化」が唯一の成長ドライバーとなります。したがって、Netflixのようなコンシューマー向け(C向け)サービスのように、顧客が無限に増える可能性があり、解約があっても新規顧客で補填できるドメインにおいて、定額課金が事業の主軸として機能します。


2. 顧客との「つながる」ことに意義がある

現在、顧客とのデジタルなタッチポイントがない事業にとって、定額課金モデルは「顧客と繋がる」ための手段として大きな価値を持ちます。

例えば、小売経由で製品を販売し、エンドユーザーの情報が把握できていない家電メーカーにとっては、定額課金を導入することで顧客情報を獲得し、後のビジネスの土台を築くことに意義があります。また、営業マンによる属人的なタッチポイントに頼っている事業では、定額課金サービスの導入を機にタッチポイントのデジタル化を進め、事業全体を次世代のサブスクリプションモデルへDX(デジタルトランスフォーメーション)していく足がかりとすることができます。


3. 他に収益源がある

定額課金モデルは、商品自体が収益性を持つことよりも、事業全体での利益に貢献する場合に有効です。具体的には、定額課金の商品を「客寄せパンダ」として位置づけ、他の収益源で補填・増益を狙います。

例えば、テーマパークの年間パスポートは、それ自体では収益を生まない可能性がありますが、利用顧客はパーク内での飲食やグッズ購入といった都度課金において多額のお金を落とす傾向があります。この場合、定額課金は顧客の「ライフタイムバリュー(LTV)」を最大化するための広告宣伝費として機能します。

サブスクリプション導入前に問うべき「役割」

事業家がサブスクリプションを始めるにあたり、最も重要なことは、「なぜ今、サブスクが必要なのか」という問いに立ち返り、事業全体の中でその「役割」を俯瞰して考えることです。性急に定額課金モデルを構築するのは得策ではありません。事業成功へのステップは「刻む」ことが肝要です。既存事業の収益性を棄損せずに、一歩ずつ進めることが、サブスクリプション導入を成功に導きます。

まず、サブスクを売るための仕組みがない場合は、エンドユーザーとのデジタルなタッチポイントを確保する課金システムなどのビジネスの土台を構築することが最優先です。いきなり商品単体での収益化を目指すのは非現実的です。次に、顧客とのつながりがアナログ・属人的な場合は、タッチポイントをデジタル化し、データ収集と顧客分析を可能にすることを目指します。そして、これらの土台の上に、商品単体での収益化が必要であれば、顧客動向のデータ分析に基づいた適切な商品設計とマーケティング戦略を練るべきです。

サブスクリプションの導入は、まず「顧客との継続的な繋がり」というビジネスの土台を築くことから始まります。その土台の上で、事業全体を収益化するための戦略ツールとして、定額課金という「飛び道具」の使いどころを検討すべきなのです。


  

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サブスクリプション解説動画


本ページでは、解説動画の内容を要約してテキスト形式でご紹介しております。
サブスクリプション事業について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひ解説動画をご覧ください。

<動画概要>
テーマ :『「定額課金」の価値と使いどころ』(約20分)
解説者 :株式会社サブスクリプション総合研究所
     代表取締役社長 宮崎琢磨
視聴方法:動画のご視聴にはお申し込みが必要となります(無料)





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