『「サブスクリプション的」である、ということ』
なぜ『サザエさん』の三河屋は究極のサブスクリプションモデルなのか? "旧くて新しい"ビジネスに学ぶ4つの強み
サブスクリプションの本質が「顧客との継続的な関係性」にあることは広く知られるようになりました。では、その関係性をいかにして構築し、事業を成功に導けばよいのでしょうか。そのヒントは、Netflixのような最先端のデジタルサービスだけでなく、意外なほど身近で、昔ながらのビジネスモデルの中に隠されています。
本稿では、国民的アニメ『サザエさん』に登場する三河屋の「サブちゃん」を題材に、持続可能なビジネスの本質を紐解きます。
三河屋の「御用聞き」に隠された、サブスクリプション的ビジネスの本質
三河屋のサブちゃんが行っている「御用聞き」は、日本の古き良き商習慣です。定期的に顧客(磯野家)を訪問し、注文を受けて商品を届け、支払いは月末にまとめて行う「掛け払い」。一見すると非効率にも思えるこのビジネスモデルこそ、実は極めて「サブスクリプション的」な要素に満ちています。
その核心は、やはり「顧客との継続的な関係が担保されていること」にあります。磯野家とサブちゃんの間には、正式な契約書こそありませんが、「いつも来てくれる」「うちの事情を分かってくれている」という強い信頼関係が存在します。この信頼が、磯野家が他のスーパーではなくサブちゃんから商品を買い続ける「ロックイン」の状態を生み出しており、関係性が事実上担保されているのです。
"三河屋モデル"に学ぶ、現代にも通じる4つの事業的強み
このサブちゃんのような「旧いがサブスクリプション的」なモデルには、現代のビジネスにも通じる4つの優れた特長があります。
- 明確な顧客接点(タッチポイント) 事業者(三河屋)にとって、顧客(磯野家)との関係を維持するための接点は「サブちゃん」そのものです。つまり、サブちゃんとの関係を良好に保つことが、そのまま売上の維持に直結します。誰に、何をすべきかが非常に明確なため、ビジネス戦略を立てやすいという利点があります。
- 低い事業リスク これは非常に重要なポイントです。サブちゃんは、サブスクリプションのために「磯野家専用の醤油飲み放題プラン」といった特別な商品を用意しているわけではありません。お店で売っている通常の商品を、そのまま届けているだけです。これにより、新しい料金体系や商品を開発するリスクを負うことなく、既存の事業基盤の上で継続的な売上を確保できます。
- 強力な顧客エンゲージメント(顧客との結びつき) 「スーパーの方が安いかもしれないけど、いつもお世話になっているサブちゃんから買ってあげよう」。こうした人情や信頼関係は、単なる価格の比較を超えた強いエンゲージメントを生み出します。この「人とのつながり」こそが、顧客がサービスを継続利用する強力なインセンティブとなるのです。
- 関係性に基づいた専用の受発注モデル 掛け払い(ツケ払い)が成立するのも、両者の間に長期的な信頼関係があるからこそです。これも、継続的な関係性が担保されているからこそ可能な、顧客にとって利便性の高い仕組みです。
まとめ:伝統的モデルの本質を捉え、DXで進化させる
サブちゃんモデルの他にも、地域で指定されている「学生服専門店」や、他に店のない「離島のよろず屋」なども、顧客との関係性が半ば自動的に担保されている、非常に強力なサブスクリプション的ビジネスです。
これらの伝統的モデルに共通する課題は、「デジタル技術の導入(DX)」が皆無であることです。しかし、これは裏を返せば、そこに大きな成長の可能性が眠っていることを意味します。これらのビジネスが持つ「つながりの本質」を深く理解し、そこに現代のデジタル技術を組み合わせることで、顧客体験をさらに向上させ、より強固で効率的なサブスクリプションビジネスへと進化させることができるのです。
自社のビジネスに眠る「サブスク的」な価値を見極めることが、次の成長戦略を描く上での鍵となるでしょう。
解説動画のご案内
本ページでは、解説動画の内容を要約してテキスト形式でご紹介しております。
サブスクリプション事業について、さらに詳しく知りたい方は、ぜひ解説動画をご覧ください。
<動画概要>
テーマ :『「サブスクリプション的」である、ということ』(約20分)
解説者 :株式会社サブスクリプション総合研究所
代表取締役社長 宮崎琢磨
視聴方法:動画のご視聴にはお申し込みが必要となります(無料)